白く続く壁からのぞく松の木の枝 かつて
 通い慣れた道 無意識の内に足が止まる
 いつもの様にインターフォンを押す
 「こんにちわ」「はぁーい、今開けます」
 小さなため息と共にまたかという気配を伴って
 扉が開けられる
 
 開けられたままの玄関からのびる階段を
 いつもの様に君の部屋へと上がって行く
 キレイに整頓され掃除も欠かさない部屋に
 温かさを持つ人の気配は無い
 いつもの様に壁には制服が掛かっている
 君が起きて何時学校へ行ってもいい様に
 もう10年前の話じゃないか…
 いつもの様におばさんはお茶を持って来てくれて
 「後、2週間で引っ越すのよ。どうする?」
 ポツリと聞いた 「何か、持ってく?」
 制服?少し欲しい気はするけど貰ってどうする…
 もう、此処へは来れないのか 来る必要は無いのか…
 いつもの様におばさんは僕を一人残し階下へ消える
 
 開け放たれた窓の薄いカーテンが揺れ
 心地良い風が遠い記憶の想いを呼び覚ます
 いつもの様に彼女が使っていたベッドに
 ゴロンと横になる
 洗濯してある筈なのに若い彼女の臭いがする
 愛しくなり眼を閉じると一気に記憶は
 現実と成り10年前に戻る